奴隷制度が公然と行われていた頃の「黒人」は奴隷黒人と、自由黒人の二つに分類されます。
自由黒人の中には、アメリカ社会で富裕層の仲間入りをした人たちもいました。
といっても実際はもっと複雑で、インディアン(アメリカ原住民)の女性に孕ませた白人男性もいましたし、白人の教育を受けた「混血人種(クレオール)」などもいました。
黒人の一部はギャングのリーダーとして闇社会でのし上がっていきました。(007シリーズでニューオリンズを拠点にする黒人のボスが出てくる作品があったように…)
そして彼らにも憩いの場としての大衆酒場(ジュークジョイント)などが必要で、そこではブルースなどが演奏されましたが、特にニューオリンズではクレオールという「黒人でありながら白人と同じ教育を受ける階層」があったことが、ジャズの発展に大きな役割を果たしました。
ラグタイムなども黒人系の影響下にある音楽ですが、ファンクのような「真っ黒さ」に比べたらまだまだ真っ白な音楽です。
ジェームズ・ブラウンが現れるまでは、マイルス・デイビスなどが「真っ黒な音楽」をやっていましたが、インストリームに位置していたとは言えません。(詳細は「商業音楽前史⑥」で記事にしています。)
累計1000万枚も、チャートはランク外?「ジャズとヒット・チャート」(1)【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道67】 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト
マイルス・デイビスがチャートとして評価されたのも1970年に入ってからのようです。
「ロックの」マイルスは大ヒットしたのか? 「ジャズとヒット・チャート」(2)【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道68】 | サライ.jp|小学館の雑誌『サライ』公式サイト
ちなみに超貧困の黒人が音楽を楽しんだ場所「ジュークジョイント」の見た目はただの掘建小屋です。
SMILE&GROOVEな日々:ライク ア ジュークジョイント
映画「エルヴィス」で、若い頃のエルヴィスが「ザッツ・オールライト・ママ」を聞いていた場所がまさに「ジュークジョイント」だったようです(テントの方はキリスト教の説教ですね)。
そして何よりも大事なのは、ジャズの発祥地と言われるニューオリンズが人種的に混血が非常に進んでいた場所だったことです。
クレオールの存在がなければ、ジャズはなかったと言っても過言ではないと言えます。
ニューオリンズの特殊性については以下の記事もご覧ください。
製作中>シカゴ土地強奪と白人化したジャズ音楽の勃興
真っ黒な音楽と真っ白い音楽
ピュアなものは存在しない。
特に、ここで話している「白黒」という二項対立にも、これは当てはまると思います。
ある音楽の形式が出来上がる時に、必ず影響を与えたものが存在します。
ブルースを見てもそうですし、クラシック音楽の歴史を見てもそうです。
また全く新しいものに見えても、何かと何かの掛け合わせだったということはよくあることです。
思いもよらないところからヒントを得て生み出されたものであるとき、誰もが驚くような作品ができることもあります。
商業音楽が生み出されたアメリカという土地は、元々いた原住民(インディアンたち)の土地に、あらゆる地域の人々が送り込まれて誕生した国です。
当初はヨーロッパの国に仕えていた貴族階級の船乗りや外交官などが「侵略者」としてアメリカにやってきました。同時に労働力が必要になり、奴隷制度が始り、アフリカの黒人たちが連れてこられました。
余談ですが、現在のアメリカを見てもわかるように実は、アジア人やウクライナやロシアなど東のヨーロッパ人も数多くアメリカに住み着いています。
ソ連(ロシア)と対立しているイメージの強いアメリカですが、アメリカの諜報機関CIAの設立時には、ソ連のスパイが深く関わっていましたし、映画「ジョン・ウィック」シリーズを見るとわかるように、ウクライナ・ロシア系やロマ系のマフィア(コネクション)も、アメリカ社会に深く蔓延って久しいことがわかります。
日本人は「白人」というとどこの地域の出身か見分けることは難しいでが、「ユダヤ系」「ウクライナ系」「北欧系」、はたまたスラヴ系、ゲルマン系などの人種的な見分けは、当の「白人」たちにとっては易々と見分けられるそうです。
1800年代のニューヨークには、すでに中国系(支那)の人たちも移り住み、「当然のように」その地域のモラルを低下させていました。
ギャング・オブ・ニューヨーク (ハヤカワ文庫 NF 254)
前置きが長くなりましたが、菊地成孔さんと大谷能生さんの書籍の中では「クロノス音楽=黒人」「アクセント音楽=白人」という棲み分けがされています。
クロノス音楽というのは簡単に言ってしまえば現代で誰もが知っている「正確に時を刻む時計」のように、デジタルで均質・均等な音楽。
アクセント音楽はその反対にデジタルから見たら、その「ずれ」とか「揺れ」があり、指揮者の「せーの」に合わせてスタートするような音楽のことです。
またこの「クロノス・アクセント」について、日本人の場合は生まれながら「アクセント」に親しんでいるようですが、黒人的な音楽を聴いたり体験したり、演奏したりすることで「クロノス」に慣れ、それが心地よいと感じることもあるようです。
ものすごくざっくりした解釈になってしまいますが、この「クロノス・アクセント」のちょうど中間にあるのが「ボサノバ」などのラテン音楽だそうです。
これは言い換えると「適当でちょうどいいリズム」とも言えるそうで、リズムの面でいうと、「汎用的」な構成を持っているのが「ボサノバ」なのです。
実際に私自身は、ボサノバにハマって日々練習をしているのですが、よく陥るのが「リズムの迷子」です。
2拍が多いボサノバは、イチの位置(「イチ・ニ・いち・に」の「イチ」と「いち」が入れ替わっても)がずれてもそれなりに演奏できてしまうため、原曲を聴きながら練習していて、気づいたら1拍ずれているということがよく起こります。
ボサノバは基本的に2拍子ですよね?リズムのとり方は従来の4拍子でいいのです… – Yahoo!知恵袋
2拍子は日本のお祭りのお囃子などでも使われている拍子で、日本人にとっても本来親しみがあるのがボサノバの「2拍」のようです。
クロノス音楽の特徴は「グルーヴ」が生み出されるものです。
クロノス音楽とはなんぞや?と思われるかもしれませんが、メトロノームがずっとなっている音楽と考えて貰えば問題ありません。
グルーヴは簡単に言ってしまうと「トランス」「神がかり」の一種だと思います。
モロッコの「ジャジューカ Jajouka」という儀式音楽がありますが、これも、アフリカからモロッコに連れてこられた黒人がイスラム教文化の中で作り上げた音楽だそうです。(悪魔崇拝のエピソードが満載ですが、あくまでリズムの例えとしてご覧いただければと思います)
一見適当に叩いているように聞こえるのが、この複雑系二拍子の特徴です。多分この方が、トランスに入りやすかったんだと思います。
阿波踊りも二拍子(一拍子もあるのは知らなかった)です。
出典のほとんどは、菊地成孔、大谷能生両名の一連の著作からです。と言っても数冊を読んだ上での、独自の解釈によるところが多いので、その辺りもご了承いただいた上で読んでいただけると助かります。
ボサノバもそうですが、世界的に有名な音楽ジャンルはアフリカから南北アメリカ大陸に移住(または強制的な移住)した黒人と、支配層である「白人」のミックスによって生み出されました。
北米のジャズ理論(つまりポップス理論)の根底には「ウクライナ・ロシア系」の人たちの音楽理論がその根底にあり、ボサノバを牽引したトム・ジョビンやジョアン・ジルベルトは「西洋人=ポルトガル人」でした。
「ブラジル人」とは侵略者であるスペインやポルトガルなどのヨーロッパ人と、南米に住んでいた原住民や、奴隷として送られてきた黒人と「混血・ミックス」した人たちのことです。当然ミックスしていない人もいます。
この辺りのことは、「商業音楽前史⑤」で詳細に見ていきますので、ご興味ある方はお読みいただければと思います。
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